ティルトテーブルを使ってみよう!

今回は、介助起立が困難であった症例にティルトテーブル立位練習を実施し、著効した時の話です。

患者のRさんは、誤嚥性肺炎で当院入院し、抗生剤投与数日で炎症所見陰性化したが、入院前よりADL低下したため、リハビリ処方された60代後半の肥満ではないが大柄な男性です。

特記すべき既往と経過としては、脳梗塞後(30年前、7年前)失語症、構音障害、右片麻痺と、右大腿骨頚部骨折(2年前)で他院でフォローされていましたが、2か月くらい前より発語、下肢運動機能、嚥下機能の低下を認めたのことです(頭部CTにて新たな病巣は認めず)。

ご家族より、今回の肺炎入院前のADLは、起立手すり使用にて介助、立位保持手すり使用にて自立、移乗介助にて可能レベルとのことです。

この症例Rさんの初回理学療法を、Fくんと私で行いました。

F 『Rさんこんにちわ。
   今日からリハビリを行います。Fと申します。よろしくお願いします。』

患 『…』
Rさんは、発語はありませんが、左手で「OK」サインをしてくれました。

F 『からだを起こしたりする前に、からだの固さを診させてくださいね。』

右肩ROM屈曲、外転90°以外は、四肢においてROM制限とくになし。

F 『力がどれくらい入るかも見せてくださいね。』

右上下肢 弛緩
左上下肢 動かせるが、筋力はMMT3前後(反応が低い)

F 『では、からだを起こしてみますね。』

起き上がり全介助 
バイタル変動問題なし

坐位保持介助
:頭頚部は安定も、体幹が後方に倒れる。

起立、立位全介助(不可と言ってもよい)
:左下肢の支持性も不十分で、股関節・体幹の直立位保持も不十分な姿勢

私 『一人では車椅子にも乗せれそうにないね(^_^;)』

F 『まずは、坐位の安定性向上を優先でしょうか?』

私 『いや、ティルトテーブルをしよう。』

F 『ティルトテーブル、ですか?』

私 『うん。
   どうやってリハ室に行こうか?
   ストレッチャーで行く?』

F 『いえ、この方の坐位なら、二人介助で車椅子に移乗すれば、大丈夫と思います。』

私 『じゃあ、そうしよう。』

F 『Rさん、車椅子に乗って、リハビリ室に移動しますね。』

リハ室で、Rさんをティルトテーブルに移乗し、ポジショニング。

私 『胴体はベルト固定してもいいけど、下肢はベルト固定せずに、膝を徒手でサポートしてあげててね。』

F 『はい。』

私 『患者さんに自分自身の足の力で踏ん張ってもらうように指示して、軽いサポートで体重を支持できてる範囲(角度)で、傾斜立位保持練習をするんだよ。
   徒手で、患者さんの下肢の支持性をサポートしつつ、筋収縮を確認するんだ。』

F 『わかりました。』

私 『じゃあ、Rさん今からベッドが起き上がっていきますけど、がんばって自分の足で踏ん張っていてくださいね。』

ティルトテーブル45度
F 『一応、踏ん張れてます。』

私 『Rさん、立ってる感じがしますか?』

Rさんは、左手で「少し」っていうサインをしてくれました。

ティルトテーブル60度
F 『あっ、力が抜けて崩れそうです。』

私 『じゃあ、45度で練習しよう。
   5分くらいがんばりましょう。』

3分後
私 『Rさん、大丈夫ですか?
   きついですか?』

Rさんは、左手で「少し」っていうサインをしてくれました。

私 『じゃあ、今日は初回ですし、これくらいで終わりましょうか。』

ティルトテーブル練習後
坐位保持見守りレベル

F 『すごい!
  座れるようになってる。』

患 『・・・!』
Rさんは、「おっ!」という表情をしました。

私 『じゃあ、立って見せて。』

ティルトテーブル練習後
起立、立位保持一部介助にて可能
:左下肢の支持性あり。股関節・体幹の直立位保持可能に。

F 『立てましたね(^_^;)』

私 『著効したってやつだね(^_^)』

移乗はステップが両下肢とも出ないが、男性介助なら一人で移乗可能レベル。

以下、フィードバックです。

私 『ティルトテーブルってあんまり使ったことないでしょ?』

F 『はい(^_^;)
  あんなに効果があるって知りませんでした。』

私 『バイタルさえ安定してたら、座れない、立てないって時には、積極的にティルトテーブルやってみたらいいんだよ。廃用でも、脳血管障害でも。
   整形で、部分荷重ができない人だったら、ティルトテーブルで荷重量をコントロールして練習できるしね。』

F 『そうなんですか?』

私 『サイン、コサイン、タンジェントで、体重の何%荷重してるかを計算できるでしょ?
   例えば、30度だと、1/2=50%荷重。
   じゃあ、今回やった45度では、何%でしょう?』

F 『えっと、1/√2ですか?』

私 『そうだね。だから、体重の約70%ということになる。
   摩擦を考慮しなければね。』

F 『なるほど。』

私 『こないだ協会の会長が講演で言ってた、急性期は質よりも早期退院のための理学療法を追究しないといけないって言ってたでしょ?
   僕は、そのための一つの方策がティルトテーブルなどの、機器の活用だと思ってる。』

F 『あの話、どういうことか全然わからなかったんですけど、そういうことだったんですね。』

私 『あとは、部分免荷歩行練習装置とかロボットスーツ、トレッドミルだって効果的だよ。』

F 『なるほど。』
   
私 『今、ティルトテーブルは施設基準になってるよね。
   つまり、お上が「これは効果的」って知ってるんだよ。
   それを僕たちのほうが分かってなくて、使っていなかったら恥しいじゃない。
   そのうち、部分免荷歩行練習機器とかロボットスーツとかも施設基準になるかもしれないよ。
   脳血管Ⅰや運動器Ⅰは、そういう施設基準でもおかしくないと思ってる。』

F 『そうですね。
  平行棒歩行練習から始めるより部分免荷歩行練習機器で歩いてもらったほうが、歩行能力の向上が早いですもんね。
  masuiさんて技術を大事にしてるけど、徒手治療にこだわってるわけじゃないんですね(^_^;)』

私 『徒手的な技術も大事だけど、機器や物理療法の選択も僕たちの大事な技能だよ(^_^)
   今後、リハビリ機器はさらに発展するだろうけど、それを使い分ける評価と、機器では治療できない部分に対する繊細な徒手技術は、人間にしかできない。
   それができる人材は生き残るだろうし、できない人材は生き残れないかもしれない。』

F  『はい。
   将来生き残れるように、がんばって研鑽します(^_^;)』

はい、今日のフィードバックはここまでです。
ティルトテーブルは、使うための準備やリスク管理が少し大変で、けっこう時間もかかってしまうためか、あまり使っていない療法士が多いように思いますが、本当に効果的ですので、一人でやるのが大変な時は、二人でやるとしても、実施する価値があります。
このことは、ティルトテーブルだけでなく、部分免荷歩行練習装置やロボットスーツにも当てはまりますので、身体機能回復のためにも、早期退院のためにも、ぜひ治療プログラムに取り入れてみてください。
 
さて、次回のテーマは、『』です。

乞ご期待!