プライマリ・アセスメントの実際

今回は、前回 の翌日に、患者Gさんの評価と治療を行い、フィードバックを行いました。

前回の記事はコチラ 。

前回のテーマになったメタ認知や、私が臨床教育やセミナーで繰り返し伝えている、用手接触技術、関節運動技術を総合的に導入した話になります。

患者のGさんは、左大腿骨頚部骨折、人工骨頭置換術後3週で当院に転院してきました。

前回時点の、立位は、股関節の伸展が不十分で、やや前かがみな姿勢でした。

独歩では、左立脚中期から後期にかけて左股関節が伸展せず体幹の前傾が強くなり、片脚支持時間も左が短くなっていました。

歩行器歩行では左立脚中期以降の体幹前屈が増強する現象は消失するが、その代わりに骨盤が右回旋する現象が出現しました。

また、歩行中は、左下肢が常時外転気味になっていました。

今回は、午前中にFくんがGさんの評価・治療を行い、その後フィードバックして、午後から私がFくんに解説しながらGさんの評価・治療を行いました。そして、業務終了後再びフィードバックしました。

まずは、Fくんの評価・治療後のフィードバックです。

私 『Gさん、どうだった?』

F  『今日は、歩行時の殿部の痛みはまだあったのですが、昨日より少し楽になったらしくて、杖歩行見守りでリハ室に来れました。
   中殿筋と大殿筋の筋力はMMT3だったので、あまり問題じゃないかと考えました。
   伸展可動域も問題ありませんでした。
   で、殿部と腰のマッサージをしたら、痛みが少しましになって、杖歩行時の体幹前傾が少し軽減しました。』

私 『だいぶしゃべれるようになったね。
   ところでROM制限はほんとになかったの?』

F  『はい。』

私 『そうなんだ。あと、痛みの原因は何だと思ったの?』

F  『術部(股関節周囲)の伸張痛です。』

私 『それで、マッサージ、ということは粘弾性か筋緊張が問題だと思ったということか。
   粘弾性だったらストレッチや等速性関節運動、筋緊張だったらストレッチでもいいんだけど、術後の現段階の組織の状態を考えて、マッサージの方を選んだ、ってことかな?』

F  『は、はい。』

私 『まぁ、でも治療後は体幹前傾が減少したんだから、それによって殿筋の筋出力は改善したんだろうね。
   よし、じゃあ僕が診てみるね。』

で、私の評価・治療結果は以下の通りです。

所見
①左股関節伸展ROMは、-10°(それ以上伸展させると腰椎前弯が増大する代償が出現)。
②左股関節内転ROMは、-10°。
③創部周囲に熱感、腫張あり。
④創部を中心に殿部の皮膚の可動性低下、アライメント偏位あり。
⑤創部を中心に殿筋膜の可動性低下、アライメント偏位あり。
⑥左大殿筋、中殿筋、左大腿四頭筋の非神経原性筋収縮あり。
⑦左仙腸関節上方辷り減少、左L5/s、4/5、2/3の関節副運動減少、関節アライメント異常あり。
⑧左L2レベルの多裂筋の筋緊張亢進あり。

評価
・④→循環障害→炎症の遷延→③(殿部痛、殿部の痛覚閾値低下に影響)。
・③④⑤⑥→①。
・③①⑥→殿筋の筋出力低下→歩行時の殿部痛、歩行能力低下。
・①→⑧。
・①⑦⑧→腰痛。
・④⑤→②→長坐位から左下肢をベッドの右側に下ろす動作に介助を要する。

治療プログラム
・④に、皮膚のアライメント修正と可動性治療
・⑤に、殿筋のアライメント修正と可動性治療
・⑥に、機能的マッサージと等速性関節運動
・⑦に、関節モビリゼーション
・⑧に、多裂筋にstrain-counter strain

治療結果
・左股関節ROM伸展5°、内転-5°。
・腰痛消失。
・立位アライメントにて、股関節伸展制限消失。
・杖歩行にて、左股関節内転制限はやや残存するも、体幹前傾や片脚支持時間短縮の現象、ならびに左殿部痛は消失。

以下、フィードバックです。

F  『すごいです。
   1回の治療であんなに変化するなんて。
   やり方もあんなにいっぱいあるんですね。』

私 『僕らの治療対象となる病態や障害はいっぱいあるし、治療方法は、それによって当然全部違うからね。
   で、今日Fくんが反省しなきゃいけないのは、股関節伸展制限と、創部周囲の熱感、腫張と、皮膚の可動性低下を見逃したことだね。
   ROMを診るときは代償を見逃しちゃいけないよ。
   それから、熱感と腫張に気づいたら、術後3週の段階で炎症が残ってることに違和感を感じれたかもしれない。
   それと、皮膚の可動性低下を診ていたら、それと炎症の遷延をつなげられていたでしょ?』

F  『はい(-_-)/~~~~』

私 『やっぱり、まだ「なんとなくのマッサージをする」クセが抜けないんだよ。
   とにかく、そこから抜け出さないと次のステップにいけないよ。
   皮膚の可動性も、僕みたいに治療できなくても、最初は軽擦法でもいいんだから。』

F  『はい。やっぱり、「触る(用手接触技術)」と「動かす(関節運動技術)」をしっかり身につけて、あとは、偏った考えにならないように仮説をいっぱい立てながら診るってことですね。』

私 『そう。これからもちゃんとフォロー、教育していくから、がんばってね。』

はい、今日はここまでです。

最後のFくんのセリフが全てですね。

さて、次回のテーマは、『歩行分析からの評価治療展開①』です。

乞う、ご期待!