最適なROM治療について考える

今回は前回Fくんが、患者Aさんの不良な立位姿勢の原因として挙げた、足関節背屈制限に対してアプローチをしたようですので、それに対するフィードバックを行いました。

前回の記事はコチラ

私 『今日のAさんの治療、どうだった?』

F  『足関節の可動域運動と平行棒で起立練習をしました。』

私 『可動域運動をしてみて、立位は昨日と比べてどうだった?』

F  『昨日よりまっすぐに近くなっていました。まだ不十分ですが。』

私 『うん。可動域は最初何度くらいだったの?』

F  『左右共に、-10°でした。』

私 『可動域運動は、具体的にどんなことをしたの?』

F  『持続伸長です。』

私 『そっか。可動域制限の因子は何だと思ってそれをやったの?』

F  『えっと、筋です。』

私 『なるほど。筋の、どんな状態だと捉えたの?』

F  『えっと…』

私 『こないだ院内勉強会で講義したよね。
   可動域制限と言っても、制限因子は、関節包内運動や軟部組織の問題があって、筋は軟部組織に分類される。
   筋の問題としては、可動性、アライメント、伸張性、短縮、拘縮、癒着がある。
   伸張性とは、粘弾性(柔軟性)と筋収縮があって、筋収縮には、非神経原性筋収縮と神経原性筋収縮がある。
   とかって、覚えてたかな?』

F  『あっ、覚えてます。
   えっと、短縮と考えました。』

私 『なるほど。短縮とは、廃用または切離・逢着後に、組織の生理長が短くなることで可動域を制限する状態だったね。

私 『それは、刺激入力によって、組織の成長を待たないといけないわけだから、治療による即時的な効果はない。
   実際、治療してみて変化はどうだった?』

F  『ちょっとありました。5°くらいずつ改善しました。』

私 『そう。ということは、他の因子も混在してたことになる。
   実際、廃用症候群によって短縮や拘縮が単独で生じることは考えにくいよね。
   その前段階の、伸張性や可動性の問題が先に生じているだろう。
   そして、それらは適切な治療を行えば即時的な改善が見込まれる。
   さて、持続伸長によって今回即時的に改善した要素は何だと思う?』

F  『伸張性ですか?』

私 『そうだね。伸張性は少し改善する。今回はそう解釈できるね。
   ところで、伸張性低下でも、柔軟性低下と非神経原性筋収縮ではそれぞれ一番効果的なの介入法は何だと思うかい?』

F  『…あまり考えたことないです。』

私 『非神経原性筋収縮は、筋の問題になっている部分を徒手的に圧迫した上でのストレッチ、すなわち機能的マッサージを行うことが効果的と言われているね。』

F  『筋が収縮してるところを特に伸ばすイメージですね。』

私 『その通り。
   じゃあ、粘弾性、柔軟性に対してはどうするのが一番いいと思う?』

F  『あっ、これがストレッチですか?』

私 『残念だけどベストアンサーじゃないね。

   粘弾性の問題というのは、分かりやすく言うと、「朝の身体の硬さ」。

   ストレッチや温熱療法でも改善はするけど、重要なのは組織を振動させることによって細胞内の保水性を高めてあげることだね。
   だから、運動でもいいんだよ。
   朝イチって身体が硬いけど、動いてるうちにいつも通りになるでしょ?』

F  『たしかに。』

私 『それを踏まえて、だけど、今回のFくんの治療では、持続伸長だけをして、その後起立練習をした。

私 『それは、短縮組織を成長させる刺激にはなったけど、伸張性の改善については十分とはいえなかったかもしれない。
   しかも、持続伸長とは、筋の緊張は緩むわけだけども、その状態で廃用症候群を伴う内部障害の患者を起立させたというのは、少しリスクがあったかもしれないね。
   栄養状態が悪い患者の場合は、筋に対するダメージは最小限にするべきだし、しかも高齢の患者の場合は、組織が脆弱だから、なおのこと配慮しなくてはいけない。
   だから、理学療法の開始にあたっては、その辺もチェックの上でどれぐらいの運動量、そして組織への負荷の許容についても考えた上で、目標動作のための問題を分析、今回の場合では可動域を検査し、制限因子の追求をして、どのような治療が適切か選択、そして起立などの動作の準備としてはどのような順番でやるのか、をプログラムしないといけない。

   つまり、可動域の改善が不十分だった理由は、一つは、短縮は即時的には変化しないから、
   もう一つは、伸張性や可動性に対して十分な評価、治療をしていなかったから。
   そして、立位が十分に改善しなかったのは、一つは、可動域が十分に改善しなかったから、
   もう一つは、起立練習をする前段階として筋出力が改善するような治療をしなかったから。』

F  『なるほど。すっごいわかりやすいです。
    今まで、そんなに考えてやったことなかったので、これからはがんばります!』

私 『サポートするから、これからもがんばってね。』

はい。今日のフィードバックは以上です。
最終的には、ほぼティーチングになってしまうのが私の悪いクセ(^_^;)

さて、次回のテーマは、『関節運動技術を身につけよ!』です。

乞ご期待!