今回は、歩行分析の要点と、歩行分析からの評価治療展開を患者デモンストレーションしながら解説しました。
患者Oさんは、うっ血性心不全急性増悪で高度急性期病院に入院2週で全身状態が安定したが、入院1週前に自宅で転倒し腰椎圧迫骨折を受傷していたということもあり、リハビリ継続目的で転院してきた、自宅退院を目指す80代女性です。
既往歴は、右大腿骨骨幹部骨折ORIF、腰椎圧迫骨折、変形性脊椎症。
合併症は、高血圧です。
小柄で細身、両下腿に浮腫あり、あちこちに皮下内出血斑もあり、全身性に組織の脆弱性が伺われます。
動作能力
・背臥位不可(亀背のため)。
・起き上がり自立。
・立位自立:重度の亀背姿勢、下肢は直立伸展位。
私 『じゃあ、ここからは歩行観察を解説していくね。
歩行は、まず大局的に観察する。
動作様式と自立度だね。
Oさんは、手引き歩行、またはつたい歩き軽介助レベル、だね。』
F 『はい。この情報は病棟スタッフとも共有するところですね。』
私 『うん。
逆に言うと、ここから先の観察が、理学療法士の専門性になるってことだよ。
次に、全体を通した特徴を観察する。
姿勢、左右対称性、連続的か断続的か、歩く動線はまっすぐ歩けてるか、ふらふらしてるか、歩隔、歩幅、スピード、遊脚クリアランスとかだね。
Oさんは、重度の亀背姿勢だけど、下肢は直立伸展位姿勢。
左右差としては左立脚支持期の時間が短いくらいで、その他大きな左右差はない。
短い左下肢支持期のあとの右下肢接地時にちょっと止まりそうになるけど、だいたい連続的なリズム。
歩く動線はほぼまっすぐ。
歩幅は短めで、遊脚クリアランスは少し引きずり気味。』
F 『僕は、この辺の観察がよく抜けててmasuiさんに注意されますね(^_^;) 』
私 『そうだね(^_^)
ついつい次にやる局所的観察に走りがちだけど、この全体を通した特徴は大事だよ。
動作様式と自立度に直接影響するのは、この全体を通した特徴なんだよね。
局所的なところばかり見てると、細かい変化には気付いても、動作様式や自立度に反映させるのを忘れてしまったり、もしくは動作様式や自立度に関係のない局所的な現象に捉われてしまっていたりするからね。』
F 『それでいつも、「なんで動作様式と自立度が変わらないの?」とか「その動作様式と自立度になっている原因は?」って聞くんですね。』
私 『最後に、局所的観察をする。
各歩行周期における動的アライメントが正常(健常)歩行パターンと異なっているかどうか。
これは、全部言語化するのは大変だから、問題となってるところだけでいいと思うよ。
正常と異なる動的アライメントにおいて、どの関節がどう異なるかを言語化する。
Oさんの場合は、左立脚期における左体幹、胸郭の立ち直り不足による左側への体重移動不足と、右立脚後期の右股関節伸展不十分、の2つくらいかな。』
F 『言われたら分かるんですけど、自分ではそこに着目できないというか、なんか問題あるなと思っても、それを言語化できないというか…(^_^;) 』
私 『だから、トレーニングがいるんだよ。
実際に見ながら、まずは大局的観察から言葉に出していく。
局所的観察は、ここがおかしいと思うなら、そこまで言語化して、具体的にどう表現するかが分からなかったら、そこは僕に聞けばいい。
でも、そうやってできるところまででいいから、ちょっとずつ言語化していくってことをしないと、いつまで経ってもできない。』
F 『なるほど。』
私 『Oさんの歩行評価をまとめると、こうなるよね。』
機能障害
A 歩行能力低下:手引き歩行、またはつたい歩き軽介助レベル。
A1左下肢片脚支持時間短縮
A2左立脚期における左体幹、胸郭の立ち直り不足による左側への体重移動不足
A3右立脚後期の右股関節伸展不十分
評価
X→A2→A1
Y→A3
私 『あとは、XとYが何かを、検査測定して調べていく。
局所的観察で見つけた異常な動的アライメントの原因として、正常な動的アライメントまたは運動に必要なROMや筋活動の問題があるかどうか、だね。
筋活動については、歩行周期の中でその筋の出力がピークとなる時期だけでなく、筋出力が始まるタイミング(歩行周期)も要チェックだよ。
ROM、筋活動、いずれの問題であっても、その問題の原因が何なのかまで理学所見として調べることが必要だよ。』
F 『歩行分析からの評価ってことですね。』
私 『そうだね。
検査測定結果を踏まえた、Oさんの理学所見と評価はこうだった。』
理学所見
①左体幹、、胸郭の立ち直り活動低下
②右股関節伸展ROM0°
③左腸肋筋(第12肋骨直下あたり)浮腫、圧痛点:安静時痛なし。
④左胸郭可動性低下:第6、7肋椎関節アライメント偏位
⑤右大腿四頭筋アライメント内旋方向に偏位、外側広筋の一部に癒着あり
評価
既往の右大腿骨骨幹部骨折ORIF→⑤→②→A3
今回の腰椎圧迫骨折の受傷事故→③(④)→①
以前の腰椎圧迫骨折、変形性脊椎症→④→①
①→A2→A1
私 『ここまできたら治療プログラムを立てられるね。
つまり、⑤④③について治療、介入方法を考えればいい。
リスクとかにも注意してね。』
治療プログラム
⑤に対する徒手的修正は、皮膚の組織脆弱性に配慮し、外側広筋の癒着部に圧をかけながら等速性関節運動を行い、外側広筋のアライメント修正と皮膚の可動性改善が得られてから、大腿直筋と外側広筋のアライメント修正を行う。
④仮治療として、皮膚の組織脆弱性にも配慮して、呼吸リズムに合わせて肋椎関節のモビリゼーション。
③起き上がり動作や安静時に痛みがないことを踏まえ、組織修復傾向と考え、経過観察。
私 『で、仮治療をして、もう一度歩行観察をする。』
仮治療後歩行
A1、A2、A3改善し、歩行の左右対称性整い、つたい歩き自立レベル。
私 『治療結果は、局所的現象→全体的特徴→動作様式と自立度の順番に反映するんだよね。
だから観察はこの逆で、動作様式と自立度→全体的特徴→局所的現象でやるわけ。』
F 『なるほど。』
私 『Oさんの場合は、これで見通しができたから、④の関節アライメント修正をしっかりして、あとは、今後の転倒予防のため、バランス戦略の多様性と安定限界の拡大を図り、多種多様なステップ練習をしてあげれば、入院前より元気になって帰れるよ。
今週中に家屋調査もしておこう。』
F 『さすがです(-_-)/~~~~』
私 『歩行分析の話に戻ると、局所的観察で捉えた現象は、運動連鎖の原則で、ある特定部位の動的アライメントの問題が全体の動的アライメントに影響していることや、ある歩行周期において見られた異常な現象が、それ以前の周期における別の現象が原因になっていることもあるんだよ。
たとえば…』
1、左遊脚期の左下肢の分節性不十分でやや分廻す。
2、左立脚期に徐々に左骨盤が後退する。
3、左遊脚終期~踵接地における骨盤前傾・下位腰椎伸展が不十分
だったら、3→2→1の連鎖
F 『なるほど…』
私 『でも、今回のOさんはA2→A1はつながるけど、A3はどちらにもつながらない。』
F 『難しいですね(-_-)/~~~~』
私 『だから、トレーニングがいるんだよ。
運動連鎖を考えることや、歩行周期の流れの中で前後の現象の影響を考えることは、自分の身体を動かしながら考えることが大事だよ。』
F 『はい。言語化する練習と、自分の身体を動かしながら考える練習ですね。
がんばります!』
私 『わからないときは聞いてね。』
はい、今日のフィードバックはここまでです。
歩行分析の要点と、歩行、動作分析からの評価治療展開のふたつがテーマになってしまったので、すごく長くなってしまいましたね(^_^;)
動作分析からの評価治療展開は一回ではなかなか分からないでしょうから、今後も時々症例を変えて解説いたします。
さて、次回のテーマは、『まっすぐ歩く練習だけじゃダメ!!』です。
乞ご期待!