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ここまで、標準的な理学療法評価プロセスから、介入点に適当な介入法を検討する上で必要となる基礎知識を整備してきました。
でも、疾患急性期などの安静臥床期間に、廃用症候群の予防目的に理学療法が処方されることは多いですよね。
その上で目標となる、離床開始後スムースな歩行能力の再獲得のための理学療法介入を検討するために、私は亜急性期医療機関の理学療法士の立場から、内部疾患急性期治療後に当院にADL能力向上目的で転院した患者の理学療法評価データを後方視的に解析し、内部疾患急性期治療後の起立、歩行の安定性低下の要因となっているROMとアライメントの問題の傾向を検討しました。
詳細はテキストで述べますが、結果は、内部疾患急性期治療後の歩行の安定性低下の要因となるROMとアライメントの問題には骨盤前傾・腰椎前弯可動域制限が多く、さらに腰椎後方偏位(前弯減少)、足関節背屈可動域制限、股関節伸展可動域制限、または膝関節可動域制限も加わると起立動作も不安定になる傾向がわかりました。
腰部は、臥床時に殿部の沈みに伴い、骨盤後傾、腰椎前弯減少位となり、このポジションに長期間曝されることで、骨盤前傾・腰椎前弯可動域制限、果ては腰椎前弯減少アライメント偏位を呈することになります。
このことについて検討する上では、本調査の限界として、転院前の治療経過やリハビリ介入の情報不足があることを整理しておく必要があります。
本調査では、対象者たちが当院に転院する前の治療経過において、具体的な安静臥床期間や日中の過ごし方、リハビリ介入の有無や開始時期、ならびにその内容について十分に知りうることができませんでした。
つまり、起立・歩行不安定群は疾患が重症でリハビリ介入時期が遅かったために、全身的にROM制限が進行していたのかもしれません。
また、歩行不安定群は、転院前の安静臥床期間を含めたリハビリにおいて、下肢を中心とした介入がなされていた可能性もあります。
とは言え、歩行不安定群(起立動作は自立しているが歩行の安定性が低下している者)においては、下肢のROM制限がほとんどなかったにも拘わらず、骨盤前傾・腰椎前弯可動域制限が有意な独立性を認めたという事実は考察すべきですよね。
私は、腰部は随意運動も難しく、離床、歩行動作の中で要求される運動も少ないため、動作(練習)の中では自然回復しにくいことが一番の要因と考えています。
しかしながら、セラピストたちの多くが安静臥床中の患者の体幹部、とくに腰部のROM制限や関節アライメント偏位を見落としていることが、二番目の要因ではないでしょうか。
安静臥床中は動かないために感覚情報が得られず、知覚運動循環が減少します(脳が知らない)。
さらに、安静臥床中(脳が知らない間)にROM制限や関節アライメント偏位が生じると、それは姿勢・動的アライメントに影響する(うまく動けない原因①)だけでなく、ROM制限域は身体図式において曖昧・簡略化します(脳が認識しなくなる)。
また、身体図式において曖昧・簡略化した身体部位は運動制御において参照されず、使うことができません(うまく動けない原因②)
脳が知らない間にできたうまく動けない原因(①②)を脳は認識できないため、離床後すぐには上手く運動探索できません(図9)。
とくに腰部は随意運動も難しく、離床、歩行動作の中で要求される運動も少ないため、ROM制限や関節アライメント偏位と、それによる動きにくさや動作障害は、日常の活動の中では改善し難いのです。
でも、意図した通り、記憶通りに動けないことは分かるため、その状態を何とかしようとし、さらなる姿勢緊張の異常を招くこと(二次的な姿勢・運動障害)にもなり、適応的行動機能がさらに低下します。
私は、ROMと関節アライメントを治療、維持すること以上に、セラピストの介入による知覚入力によって身体図式を再構築することが、離床開始後のスムースな適応的行動機能の再学習にもつながると考えています。
知覚入力とは、運動による体性感覚だけでなく、セラピストによる触刺激、圧刺激、振動刺激なども有効と考えています。
また、上述のように、骨盤前傾・腰椎前弯可動域制限の発生要因としては臥床中の臀部の沈み込みが考えられるため、ポジショニングや体位変換も重要です。
病棟スタッフとの連携、協力も必要ですね。
詳細はテキスト【再考 標準的理学療法】で!