今回は、メタ認知に関する話です。
場面は、Fくんが患者さんの初回評価でADL設定をするところに、私が後ろから見守っていたときのようすです。
患者のGさんは、左大腿骨頚部骨折、人工骨頭置換術後3週で当院に転院してきました。
既往に、糖尿病性腎症があり透析をしています。肥満体型です。
受傷前のADLは自立です。
この日は、このあと昼ごはんを食べてすぐに透析に行くことになっていたので、急遽院内のADL設定を依頼されました。
短時間でADL設定をしながら、軽く問診と、動作観察をしながら、障害像の予測をしました。
後でフィードバックした内容を踏まえて、実際の場面の中でFくんと私がそのとき考えていたことを描写してみました。
F 『失礼します。リハビリのFです。
今日はこのあと透析があるので、今から、病院内をご自分でどれぐらい動いてもらえるかをチェックさせてもらいたいのですが、よろしいですか?』
患 『はい。よろしくお願いします。
歩くのはちょっとは歩けるけど、仰向けで寝ると腰が痛いんです。
横向いて寝たら痛くないけど。』
F (腰の緊張が高くなってるのかな?)
私 (元々なにか腰痛に関する既往があるのか?
それとも、入院中の生活習慣が影響してるのか?
左下肢の問題が関連してるのかもしれない。
もしくは、今回の受傷時に腰周辺の軟部組織の損傷とか、関節アライメントの問題を併発したとか?)
F 『腰ですか。腰は明日詳しく診せてもらいますね。
じゃあ、ちょっと立ってるところを見せてもらえますか?』
Gさんは長坐位から患側の左下肢をベッドの右側に下ろす際、自分の手で介助していました。
私 (術後3週で、この動き(内転)に介助がいるということは、回復が遅いのでは?
透析をしているから?たしかに血液データでもアルブミンは低値だった。
それとも、現在の筋力に対して下肢が重いからか?それとも他に?)
立位は、股関節の伸展が不十分で、やや前かがみになっていました(腰椎は前弯~フラット)。
F (股関節伸展ROM制限かな?殿筋の筋力低下かな?)
私 (元々の立位姿勢はどんなだったんだろう。
上位胸椎の円背は受傷前からのものだろうけど、それで肥満体型で、歩行自立だったなら、foward head - 上位胸椎kyphosis - flat back - 膝は少し屈曲(完全伸展はしない)の姿勢になるか、少なくともこんな風に前かがみではなかったはず。
つまり、股関節伸展ROM制限が問題にはなっているのだが、その原因は何だろう。
痛みによる筋spasm?筋緊張?皮膚の短縮と可動性低下は?もしかしたら人工骨頭置換に伴って脚長が長くなったことによる筋生理長の不足?
あと、股関節伸展ROM制限があるなら、背臥位での腰痛とも関連付けられるかもしれない。
背臥位での腰痛の有無を、股関節の屈曲・伸展角度の違いで評価しなくては。)
F 『少しは歩けるんですね?少しこのまま歩いてもらえますか?』
独歩では、左立脚中期から後期にかけて左股関節が伸展せず体幹の前傾が強くなり、片脚支持時間も左が短くなっていました。
患 『歩くと、左のお尻が痛いですねん。』
F (やっぱり股関節の伸展ROM制限だけでなく、殿筋の筋力低下もあるみたいだ。
痛みの評価もしておかないとな。)
私 (殿筋の筋力低下もあるみたいだが、3週で、肥満体型で、なんとか独歩ができるなら上等かな。
では、どうしてベッドから左足を下ろすときに介助していたんだろう。
ほんとは、あの動作もできるんじゃないのか?それとも閉鎖神経の問題でも?
あと、殿部の痛みは、負荷を変えることで減少するのか、しないのかはどうだろう?)
F 『何もなしでもなんとか歩けてますが、病院の中を歩き回るなら、歩行器を使ったほうがいいかもしれないですね。
歩行器でも歩いてみてもらえますか?』
患 『歩行器やったら、痛くないです。』
歩行器歩行の観察は、Fくんと私で少し違いがありました。
F (歩行器なら痛みも体幹前傾の現象も消失したぞ。筋力低下が問題だ。)
私 (歩行器では左立脚中期以降の体幹前屈が増強する現象は消失するが、その代わりに骨盤が右回旋する現象が出現する。
やはり股関節伸展ROM制限は存在するみたいだ。
また、歩行中、左下肢が常時外転気味になっている。
内転ROM制限もあるのか?
だとすると、さっき長坐位から左下肢を動かすのがしにくかったことともつながるな。
この2つのROM制限はそれぞれ別の制限因子があるのか?それとも、共通の問題があるのか?
負荷によって痛みが変化するのか。だったら、術後3週の状態の中で、筋出力は十分できているのか、あるいは筋アライメントとか筋収縮など筋出力に影響する改善可能な問題はないのかを診てあげないと。)
ここまでチェックし、院内ADLは歩行器歩行自立として、初回は終了しました。
で、フィードバックです。
F 『なるほど。そんなに考えながらやるんですね。』
私 『でも、Fくんも、まぁまぁ歩行の観察もできてるじゃない。
あとは、もっとたくさん仮説を立てるってことと、一つ一つの現象や訴えの仮説どうしを関連付けるってことを心がけたらいいんじゃないかな。』
F 『はい。がんばります。』
このようにいろんな角度から仮説をたくさん挙げて、問題を見逃さないようにすることを、メタ認知といいます。
自分の得意な問題ばかりにならないようにするには、幅広い知識だけでなく、後から自分で行った評価を振り返って、他の可能性を考える時間も必要です。
そのためには、一人でやるだけでなく、同僚や先輩と、患者さんの評価や治療について議論するのも効果的です。
さて、次回は、今回の翌日に、患者Gさんの評価と治療を行い、フィードバックを行いました。
テーマは、『プライマリ・アセスメントの実際』です。
乞ご期待!